伊東達矢校長ブログ

2024.11.25

ハラスメント

 嫌がらせを意味する「ハラスメント(harassment)」という言葉が日本ですっかり定着しました。その嚆矢となったのは、1989年の裁判を機に広まり、その年の新語大賞となった「セクシャルハラスメント(セクハラ)」です。その後、地位の優越性による「パワーハラスメント(パワハラ)」、教育研究の場における「アカデミックハラスメント(アカハラ)」、妊娠や出産に関わる「マタニティーハラスメント(マタハラ)」、言葉や態度による精神的な虐待「モラルハラスメント(モラハラ)」、飲酒を強いる「アルコールハラスメント(アルハラ)」、悪質な消費者や顧客による「カスタマーハラスメント(カスハラ)」、教師の間や教師と児童生徒の間で起きる「スクールハラスメント(スクハラ)」、匂いによる「スメルハラスメント(スメハラ)」、医療・福祉のスタッフが患者やその家族から受ける「ペイシェントハラスメント(ペイハラ)」、ハラスメントを受けた人が強要される「セカンドハラスメント(セカハラ)」、正当な行為なのに過剰に反応する「ハラスメントハラスメント(ハラハラ)」など、次々に「○○ハラ」言葉が生まれています。
 法整備によるハラスメント対応の義務化も進み、2007年にセクハラ防止の男女雇用機会均等法、2020年にパワハラ防止の労働施策総合推進法、2022年にマタハラ防止の女性活躍推進法がそれぞれ改正施行されました。カスハラについては、2024年6月に「法的措置も視野に入れ、対策を強化する」と閣議決定され、法律に先駆けて2025年に東京都でカスハラ防止条例が施行されます。
 ハラスメントが問題視される中、学校における子どもへの指導にも十分な配慮が求められています。子どもを正しく導くためには、教師は時に厳しく指導する必要があります。すべき指導をためらい、見て見ぬふりをするのでは教師失格です。ただ、多様な特性を持つ子どもが認知されるようになった今日、教師はハラスメント対応を含め、適切な指導についての知見を深めなくてはいけません。
 一方、学校は保護者への対応にもいっそう注意を払うようになっています。かつてはよほどでない限り、保護者が学校に意見することはありませんでした。子どもを人質に取られているような思いがあったにせよ、やはり学校という権威に口をはさむのが憚られたのでしょう。しかし、保護者の高学歴化や情報社会の進展により、学校に意見する敷居は低くなりました。「モンスターペアレント」と揶揄されたのは昔の話で、今や「物言う保護者」が当たり前です。
 こうした学校と保護者を取り巻く状況を、安易にハラスメント問題として括るのには、教育機関として慎重でなくてはいけないと思います。未来を担う子どもを育てるという立場では、保護者と教師はパートナーであり、その意味で互いの立場を尊重することがまずもって大切だからです。
 教育の基本は信頼関係にあります。子どもと教師、保護者と教師は、互いに頼りにし、信じ合わなくてはいけません(それは親子の間でも同じです)。信頼の構築には、相手を理解しようとする気持ちと、正確な情報を共有しようとする姿勢が必要です。一方的な主張や思い込みによる論争は不毛であり、だいいち子どものためになりません。そして意見を交わす際には、何よりも子どもの成長にかなうかどうかが優先されなくてはいけません。
 ハラスメントが注目される今、対話を重ね、互いを知り、顔の見える関係を作ることで、子どもたち、そしてわたしたち大人も、人間的に成長できるのです。

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