伊東達矢校長ブログ

2024.10.29

子育ての悩み


 「親はなくとも子は育つ」と言います。親がいなくても子どもは成長するものだから、そう心配しなくていいという意味です。一方、「親の背を見て子は育つ」とも言います。こちらは、子どもは親のすることを無意識に当たり前だと思うものだから、親は子どもに恥ずかしくない言動を心がけるべきだという意味で使われます。
 子どもが独り立ちするまで、何くれとなく世話を焼きたくなるのが親というものです。それだけに、いつの時代にも子育ての悩みは尽きません。核家族化が進み、共働き家庭が多数となった今日では、子育てにかける時間も悩みを相談する相手もおいそれと見つからず、いきおいネット上の情報に頼ることになります。しかしそこには様々な言説があふれていて、どれを頼りにすればいいのかさらに悩むことになりかねません。最近では、子どもの自主性を重んじるべきだという言説が広がり、褒めて伸ばすことが子育ての主流のようです。
 実際には、親の思うように子どもは育たないと頭ではわかっていても、子どものすることに口を出したくなります。言うことを聞かない子どもについ怒りたくもなります。直木賞作家の佐藤愛子は、母親と子どもとの関係をこう喝破しています。

 母親にとって子供は自分の血を分けた、切っても切れぬ分身である。こういう人間になってほしい、こういうことはしてほしくないと常に願っているのは分身ゆえだ。他人の子供ならば「あんなことしてる。しようがないねえ」ですむが、母親だから怒りに火がつく。怒るなといっても無理だ。それが母親というものなのだから。(『九十歳。何がめでたい』小学館 2021年)

 子どもをうまく育てられなかったら、親として否定された気になるのでしょうか、子どもを叱咤するあまり、虐待行為に走ったり、逆に気を遣いすぎて何でも子どもの言いなりになり、してはいけないことを制止できなかったりするケースも珍しくありません。そうした子育ての悩みは、「子どもをうまく育てられなかった親」というレッテル貼りを恐れ、なかなか表に出せません。
 学校は、未熟な子どもを育て、社会に送り出すところです。教師は教育者としての知見と経験を備え、子どもたちの健全な育成に努めています。特に初等教育を担う小学校では、子どもの心身を安寧なものにし、集団の中で自分をどう活かすかを身につけさせます。そのためには、保護者との信頼関係が欠かせません。保護者面談のときなどは、成績や行動のことにとどまらず、家庭における子どもと親との関係や、これまでの子育ての苦労についても話すことができると、親としての心労はいくらか軽くなるでしょうし、教師は保護者の気持ちに寄り添って子どもの成長を後押しすることができます。保護者と教師は、ともに子どもを育てるパートナーです。子どもたちのために、ぜひそのパートナーとしての関係を活用してほしいと思います。

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