伊東達矢校長ブログ
2024.09.20
お互いさま
「他の人の迷惑にならないようにしましょう」
校外学習に出かけるときなど、子どもたちによくこう言って注意します。子どもに限らず大人に対しても、バスや電車の車内で同じような注意を促す放送が流れます。
迷惑とは、ある行為がもとで他の人が不利益を受けたり、不快を感じたりすることです。不特定多数の人がいる公共の場で、走ったり、騒いだりすると、他の人の迷惑になります。走り回りたい、飛び跳ねたい、大きな声を出したいというのが子どもの本性ですから、特に学校の外では、トラブルや事故を防ぐために、教師はそうした子どもの衝動を抑え、行儀よくさせることが求められます。
けれども、いつ何時でも他の人に迷惑をかけてはいけないのでしょうか。世の中は、迷惑をかけ、迷惑をかけられることでうまくいっている面もあるのではないでしょうか。
日本語に「お互いさま」という言葉があります。相手も自分も同じ状況や立場にあり、相手の言い分は自分にも当てはまるということです。自分が人に迷惑をかけ、自分もまた人から迷惑をかけられることで、互いに共感し合い、相手を思いやる気持ちになれるのです。
迷惑をかけ、迷惑をかけられる関係では、必ずしも自分の意向が通るとは限りません。しかし、同じように自分とは異なる相手の意向が成立するわけでもありません。だから、双方が次善の策として「プランB」を用意しておき、調整を図って合意するようにするのです。妥協の産物といって批判されることもありますが、集団社会における合意形成には必要なプロセスです。「プランAしかない」というのはあまり危なっかしく、ときに独善になります。
逆に「誰にも迷惑をかけていないのだから、ほっといてくれ」と言う人がいます。果たして放っておいていいものでしょうか。思想家の内田樹は、そう言う人は、他人に迷惑をかけたくないからではなく、他人から迷惑をかけられたくないからそう言うのであり、自己決定について他人に関与されたくないと宣言しているのだと述べています。さらにそう宣言することで、その人は「戻り道のない社会的降下のプロセス」を歩み始めると指摘します(『下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち』)。
頼り、頼られ、迷惑をかけ、かけられる関係は、相互扶助のネットワークと言えます。リスクあふれる現代社会に、自己決定・自己責任を貫けるような強者は存在しません。「お互いさま」の考えは、そのような世知辛い今日にあっていっそう重要であると思います。「ご迷惑をおかけしました」と言われたら、「お互いさまですよ」と言える社会でありたいと願います。
伊東 達矢
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