伊東達矢校長ブログ
2024.05.21
正解のない問題に向き合う前に
私立の中高一貫校に勤めていたとき、校舎の建て替えがありました。
計画段階で意見の割れたのが「上履きにするかどうか」でした。それまで中学の校舎では上履きでしたが、高校の校舎では土足だったのです。靴に付いた運動場の土が教室に持ち込まれ、夏にはエアコンのないために開け放った窓から砂が舞い込み、高校の教室の床はいつもざらざらしていました。
新しい校舎には冷暖房も完備されるので、衛生面からも中学同様に上履きを採用するのが当然に思われましたが、慣習を変えるには様々な抵抗がありました。
「土足で特に支障はない。むしろ履き替えが面倒だ」
「上履きを履かない生徒に指導しなくてはならなくなる」
「そもそも中学に揃える必要があるのか」
といった声から、
「海外の学校では土足が当たり前だ」
「土の持ち込みには掃除をすればすむ」
「3学年分の下足入れのスペースが必要になり、空間がもったいない」
といった意見も出て、すんなりとはいきませんでした。
結局、高校校舎も上履きとなりましたが、この経緯を思うと、従来の「当たり前」を変えるには思いのほかエネルギーがいることを実感します。
社会が複雑になり、価値観が多様化するとともに、情報がすさまじい勢いで膨張している今日、そのスピードについていくことに疲れてしまいそうです。「当たり前」がそうでなくなることに不安を感じます。
子どもたちにとっても、紙媒体の教科書やノートのほかに、タブレットなどでデジタル教材を使いこなさくてはいけない時代になっています。小学校の教科として英語や道徳が必修化され、かててくわえて情報教育、金融教育、環境教育もするようになりました。子どもたちの学ぶ範囲や情報量は、かつてと比べものにならないほど増えています。
教育の場では、一つの決まった答えを教えることより、正解のない問題に対峙できる力を育てることが求められ、これまでの「当たり前」や「ふつう」が揺らいでいるかのようです。
しかしそんな不確実な時代だからこそ、わたしたち大人は子どもたちに対し、自信をもって方向性を示さなくてはいけません。
正解のない問題に向き合うには、正解を導く手立てを学ぶ必要があります。学校教育において、決まった答えに至るまでの道筋を繰り返し練習することは、これまでと同様、いやそれ以上に重要です。そのために覚えることをないがしろにしてはいけません。漢字や九九を反復練習し、県庁所在地や歴史的人物、実験器具や名称や指示薬の反応を暗記するなど、国語・算数・社会・理科における基本的な知識のトレーニングとテストは、考える力を支え、培うものです。
一つの決まった正解を導く手段を身につけてこそ、正解のない問題に向き合う力が得られるのです。わたしはそう思います。
伊東 達矢
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