伊東達矢校長ブログ

2023.10.30

助けてと言えない

 いじめや虐待が発覚したとき、どうしてもっと早く助けを求めなかったのかと疑問に思う人がいます。でも、助けてと言えない子どもは少なくありません。子どもは、自分の身に起きていることが人権侵害だとわかっていない可能性があるからです。

 人権は全ての人に保証されている権利です。国民がその能力や可能性を発揮できるように国(政府)は支援をする義務があり、人権とはその支援を要求する権利です。子どもにとっての人権は、保護者や学校に対して義務を果たすように要求する権利といえます。

 義務とは次の三つです。

・子どものすることを尊重し、不当な制限をしないこと(尊重義務)

・子どもをいじめや虐待から守ること(保護義務)

・子どもがその能力を発揮できる条件の整備をすること(充足義務)

 かつては、親が子どもに「○○しないとご飯抜きだよ!」と言うのはめずらしくありませんでした。教師に「廊下に立ってろ!」と言われた生徒が、両手にバケツを持たされて立つという光景も受け入れられていました。教鞭(むち)でぶったり、出席簿でたたいたりする教師もいました。体罰はいけないとされながら、わが身を振り返って体罰を許容するような風潮がいまもあります。しかし全て重大な人権侵害行為です。

 子どもが間違ったことをしたとき叱って更生を図るのは、親や教師の果たすべき務めです。かといって、子どもを肉体的、精神的に追い詰めるような指導は許されません。

 子どもの言い分に耳を貸さず、一方的に叱りつけてはいけません。聞き分けのない子どもに対し、怒りにまかせて大声で長時間怒鳴りつけるなど論外です。一喝して黙らせても、多くは叱る側の自己満足で終わります。

 叱られているとき、子どもはあまり反論しません。それは自分のしたことが悪かったと反省しているからというよりも、反論すればますます叱られると知っているからでしょう。幼い子は泣きますが、少し年齢がいけば黙って我慢します。そして早く怒りが収まってほしいと思っています。

 食事を与えなかったり、授業に参加させなかったりするのも、それに代わる措置をしない限り、その子の人権を侵害していることになります。いじめや虐待が疑われるにもかかわらず、見て見ぬふりをするのも同様です。

 子どもの心身を傷つける行為をマルトリートメント(不適切な養育)と言います。子どものときにマルトリートメントを受けていると、成長して心のトラブルに悩む可能性が高いとされています。

 また、怒りの感情と向き合う心理トレーニングをアンガーマネジメントと言います。怒らないことを目的とするのではなく、怒る必要のあるときと、怒る必要のないときをきちんと区別できるようにするトレーニングです。

 名進研小学校では「規律」を大事にしていますが、大人も子どもも様々なストレスにさらされている現代、規律を教え、学ぶことがストレスにならないようにして人権教育に取り組んでいます。人権感覚は、自分の大切さとともに他の人の大切さを認めることであり、言葉で説明するだけでは身につきません。学級活動を通し、自己と他者を尊重する感覚が育つように努めています。

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