伊東達矢校長ブログ

2023.07.18

人見知り

 「うちの子は人見知りするんです」と困ったようにお話しになる保護者の方がいらっしゃいます。

 「人見知り」の「人」は他人のことですから、他人を見て知ること、見て判断することが「人見知り」のもともとの意味です。そこから、顔見知りではない人を見て恥ずかしがったり嫌ったりすることを意味するようになりました。コミュニケーション力が重視される現代、「人見知りをする子は消極的で人間関係を築くのが苦手」「人見知りをしない子は積極的で社交性がある」とされ、人見知りは克服しなくてはいけないものと考えられているようです。

 日本の社会は一人一人がシャイで、同調圧力の強いのが特徴です。授業で「質問はありますか」と尋ねると、小学校低学年のうちは競って手を挙げますが、学年が上がるにつれて挙げなくなります。大人の世界でも、研修会などで席が自由だと後方から埋まっていきます(コンサートなら最前列がS席なのに)。前の方の席に座って目立つのが恥ずかしいのです。まして最前列で手を挙げようものなら、会場中から注目を浴びることになるでしょう。だから後ろの席に座ります。これも人見知りと関係がありそうです。人見知りは英語でシャイネス(shyness)ですから。

 学童期の子どもを対象とした心理学研究で、「人見知りは回避と接近の葛藤状態である」と報告されています。相反する感情のうち、どちらを選ぶか迷うのが葛藤です。つまり、人見知りをする子は、相手を警戒する一方で近づきたいとも思っており、コミュニケーションを求めていないわけではないのです。そんな子どもの心の葛藤を理解し、必要なときに、その子に合った人間関係を作っていくようにすることが大切です。やみくもに「もっと積極的になれ」と言ってもどうにもなりません。

 人見知りをする子は、初対面の人と話すのが苦手ですが、人の話に耳を傾けることはできます。自分の意見を周りに主張するより、人の考えを分析・整理することに長けているのではないでしょうか。人見知りの子にはすぐに返答を求めないことです。頭の中が整理されていないうちに、「あなたはどう考えているの」「あなたならどうするの」などと矢継ぎ早に問い詰めても答えられません。人見知りの子は口下手でもあります。でも、口下手は訓練によって改善できます。自分の行動を説明できるようになります。

 集団社会の中で、皆が皆リーダーである必要はありません。そもそもリーダーシップは、優れたフォロワーシップを持つ仲間がいて発揮されるものです。リーダーと異なる意見も正確に分析し、集団の中で議論を促すというフォロワーの働きは、決して消極的なものではありません。そしてその役割には、人見知りの子が持つ「回避と接近の葛藤状態」の経験が有効なのではないでしょうか。我を押し通すことなく、じっくり人の考えを聞き、調整を図ることは、複雑化した現代の課題解決に必要な能力です。人見知りの子の特性を理解することは、その子の可能性の発現につながると思います。

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