伊東達矢校長ブログ

2022.12.20

名は体を表す

 親御さんから子どもの名づけのいわれを聞かせていただくことがあります。

 子どもの名前を決めたときのことを忘れる親はいません。どの親御さんもうれしそうにとうとうと話してくださいます。「祖父、父に連なる一字を入れたんです」「夫婦が同じ音で始まる名前なので子どもも同じ音で始まる名前にしました」「難産の末に生まれてきてくれたことに感謝する気持ちを込めてこの名に決めました」等々。音の響きで決める、字画にこだわる、生まれた季節や月などにちなむなど、名づけ方はいろいろですが、一生に関係すると思えば、親が子どもの名づけに真剣になるのもうなずけます。考えてみれば、自分の子どもの名づけについて人から尋ねられる機会というのはめったにないことです。教師だから聞けるとも言えます。いわれを知った子の名を呼ぶと、その親の気持ちが胸をよぎります。こうなってほしいという親の願いをその名に受け、子どもは成長していくのです。

 わたしは、子どもたちの名前を初めて知ったときからしばらくはフルネームで、何回か顔を合わせるようになってからはファーストネームで呼ぶようにしています。できるだけ名字だけでは呼びません(下の名前を忘れてしまったときは別です)。「いとうさん(いとうくん)」ではなく、「いとうたつやさん(いとうたつやくん)」または「たつやさん(たつやくん)」です。そこで名前の由来を聞いたり、考えたりします。そして名づけた親の気持ちに子どもたちといっしょに思いをはせます。

 名は体を表すと言います。名前にはそのありのままの姿が表れるという意味です。名前で呼ぶことは、その人となりを知り、コミュニケーションを取っていこうとする姿勢につながります。言ってみれば「あなたのことを知りたい」という意思表示です。

 教師は受け持ちの子どものことを知ろうと努めなくてはいけません。どんな家庭環境に育ったか、仲のいい友だちは誰か、得意な科目は何か、何に苦手意識を持っているか、どんなことに関心があるか、悩みやトラブルをかかえていないか……。時には知らない方がよかったと思えることも耳に入ってきます。30人いれば30通りの子ども像があり、あだや十把一絡げにはできません。それぞれに異なるからこそ学校生活で子どもたちは社会性を育んでいけるのです。教師はそのファシリテーターです。

 親であれ、教師であれ、子どものことで気になることがあったとき、根掘り葉掘り聞くのは戒めなくてはいけません。気にしつつも詮索はせず、見守ることが大事です。とは言え、知らんぷりするのともちょっと違います。「知ってるよ。気づいてるよ。でも今は見てるだけ」という微妙なシグナルを送ることで子どもは安心します。そういうときに名前で呼ぶことは、「たくさんいるうちの一人の子ども」ではなく、「唯一無二のあなた」であることを伝えることになるでしょう。

 かまってやりたい、でも忙しい。声をかけてやりたい、でも時間がない。それが大人の現実です。でも子どもたちは日に日に大きくなっていきます。子どもにかかわってやれる時間は実のところとても短い。だから、特段に何かしてやれなくても、目を見て名前を呼んで「見てるよ」シグナルを出すようにしたいと思います。

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