伊東達矢校長ブログ

2022.04.13

自律の心を育む

小学校高学年のお友だちから、「校長先生なんだから何でも命令して決められるんでしょう?」と言われました。それに対してわたしは、「校長が全部決めて、学校のみんながそれに従うだけだったら、誰もものを考えなくなりませんか。そしてもし、校長が間違ったことを言ったら、困るのはそんな理不尽な命令に従わなくてはいけないみんなでしょう。頭のいい人というのは、誰かにしてもらおうと期待するのではなく、自分で考え、知恵を集め、工夫して行動し、提案できる人です。わたしがこの学校の校長としてしなくてはいけないのは、みんなが頭のいい人になれるような環境をつくることで、命令して言うことに従わせることではありません」と答えました。

名進研小学校の校訓にもある「自律」とは、外からの力にしばられず、自分の立てた規範に基づいて行動することです。小学校教育では、まず、「(聞こえないと困るから)人が話しているときはしゃべらない」「(転ぶと危ないから)廊下は走らない」「(気持ちのいいコミュニケーションのために)自分からあいさつをする」といった規律を身につけることから始めます。それを踏まえた規範意識に基づき、自ら考えて決めることを学び、それを正しく人に伝える力を育んでいきます。その力こそ、教育の場で最近よく耳にする「思考力・判断力・表現力」であり、2020年3月に公示された学習指導要領の謳う「生きる力」につながるものです。

校内を見回っていると、子どもたちの好奇心の旺盛さに驚かされます。「先生、こっち来て」「先生、見てて」「先生、聞いて」と毎日言われます。新しいことを知りたい、自分の世界を広げたい、そして自分のことを知ってもらいたいという思いが、言葉に、行動にあふれています。それに付き合っていると、それぞれの子どもの興味・関心、家庭での様子、性格や行動の特徴が見えてきます。実に多彩で、人はひとくくりにできないものだと改めて感じます。一人一人の気持ちを大事にして、子どもたちに他者を知り、社会を知っていってほしいと思います。

時あたかも大国の一人の大統領が国の方針をすべて決め、無謀な戦争に突入しています。情報統制が行き届き、その国の人びとは真実を知るすべもないようです。そうした国の人たちは幸せでしょうか。歴史が教えるとおり、独裁国家は必ず行き詰まります。自分の考えを持つために学ぶ、その大切さを痛感しないではいられません。

自律の心は、ひとりよがりなものではいけません。他者を敬い、時に頼り、自らを向上させることで培われるものです。規律にのっとって行動できる自制心と、自由な考えを持ってそれを発表できる自発心とがバランスよく整って、初めて子どもたちは自律の心を持つことができるのです。そしてこの自律の心は、わたしも含め、大人にも必要なのではないでしょうか。

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