伊東達矢校長ブログ
2022.05.09
どうぞお入りください
校長室の扉を開放しています。取っ手には「どうぞお入りください」「いまいません」「おきゃくさまがきています」のいずれかの札が吊り下がっています。子どもたちだけでなく、教職員でも、保護者の方でも、ふらっと入ってきてもらいたいからです。
最初に校長室をのぞいたのは低学年のお友だちでした。中休み、5、6人が一緒になってもじもじしています。「どうぞお入りなさい」と声をかけると、ぱっと笑顔になって飛び込んできました。いまでは大勢でやってきます。8つある来客用の回転椅子を取り合い、ぐるぐる回っています。大理石でできたインテリア用の地球儀は、高速自転させられます。歓声があふれるなか、「校長先生の好きな食べ物は何ですか」「ぼくが何組か当ててください」「わたしの名前、覚えてますか」と真剣な顔で言います。わたしが持ち込んだ児童書を見て、「これ、うちにもある!」「校長先生、読んで」と迫ってきます。
偉いなあと思うのは、休み時間の終わりを教えてくれる子がいることです。子どもたちはきちんと椅子を元通りに片づけ、「失礼しまーす」「ありがとうございましたー」と口々に言いながら、波が引くようにさあっと引き上げていきます。テーブルにたくさんの小さな手のひらの跡を残して。
1週間くらいすると中学年や高学年のお友だちが訪れるようになりました。2人か3人というのが低学年の子たちと違うところです。そのなかに1人で来る女の子がいました。特に何かするわけでもなく、子どもたちが大騒ぎしているそばで、ただ立っているのです。「どうかしましたか」と聞くと、「友だちと違う組になって孤独。校長先生なんだからクラスを同じにしてよ」と言います。思ったことをすぐ口にしてしまうところのあるわたしは、「そうですか。でも空間的な距離ができたからって、友だちがいなくなったわけじゃないでしょう」と言ってしまいました。彼女は何も言わず、すーっと校長室を出ていきました。その翌日、その子はまた1人でやってきました。手に本を持って。
そして次の日。校長室にいたその子を指さして「あっ、見ーつけた!」と、2人の女の子が校長室に入ってきました。わたしが「友だち、ちゃんといるじゃないですか」と言うと、その子は少しはにかんだ顔をして友だちと連れ立っていきました。それからは3人そろって校長室に来るようになりました。
現代の子どもたちは、勉強や習い事で忙しいだけでなく、周りからの期待に応えなくてはというプレッシャーもかかえて大変そうです。ときどき、「いっぱい、いっぱい」という言葉が子どもたちの顔に感じられるのです。学校は小さな社会です。ストレスを感じることがあって当然でしょう。けれど、というか、だからこそ、時に心を解放し、リラックスできる時間と場所も必要です。
小さなお友だちに「校長先生、いま忙しいですか」と言われたときはショックでした。こんな小さな子が相手の都合を推しはかるなんて。自分は子どもに忖度させているのだろうかと。だからわたしは「校長先生はたいていヒマです」と言うようにしました。「忙しいからまたあとでね」と言うと、子どもたちはその「あとで」がいつなのか心待ちにします。もちろん大人は知っています。「あとで」は「無い」ということを。でも、子どものうちからそんな社交辞令を覚えさせる必要はありません。
教員は子どもたちの健やかな成長を図るのが仕事です。子どもたちには、せめて「あとで」がいつなのかを伝えるように心がけたいと思います。
伊東 達矢
ご挨拶- 2024年12月 [1]
- 2024年11月 [2]
- 2024年10月 [2]
- 2024年9月 [2]
- 2024年8月 [2]
- 2024年7月 [2]
- 2024年6月 [2]
- 2024年5月 [2]
- 2024年4月 [2]
- 2024年3月 [2]
- 2024年2月 [2]
- 2024年1月 [2]
- 2023年12月 [2]
- 2023年11月 [2]
- 2023年10月 [2]
- 2023年9月 [2]
- 2023年8月 [2]
- 2023年7月 [3]
- 2023年6月 [2]
- 2023年5月 [2]
- 2023年4月 [4]
- 2023年3月 [2]
- 2023年2月 [2]
- 2023年1月 [2]
- 2022年12月 [2]
- 2022年11月 [3]
- 2022年10月 [3]
- 2022年9月 [2]
- 2022年8月 [2]
- 2022年7月 [5]
- 2022年6月 [2]
- 2022年5月 [3]
- 2022年4月 [6]
おすすめコンテンツ
Contents