伊東達矢校長ブログ

2022.07.25

トラブルに向き合う

  入学を検討されている方に、説明会や個別相談会、オープンスクールを開いています。予約して足を運んでくださる方と対面でお話しできるのですから、わたしたちにとっては学校の魅力をダイレクトにお伝えする貴重な機会です。ネットやパンフレットで伝えきれないこともできるだけご説明するようにしています。

 よく聞かれるのが学校におけるトラブルについてです。特にいじめに対する学校の姿勢を気にされる方が少なくありません。

 2013年に施行された「いじめ防止対策推進法」は、いじめを「一定の人的関係にある他の児童生徒が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む)」によって「心身の苦痛」を感じさせるものと定義しています。

 かつて「わが校にいじめはありません」と胸を張った校長がいましたが、わたしには、いじめの存在が見えていなかったとしか思えません。学校に限らず、集団社会でいじめやそれに類することが生じるのを完全に防ぐことはできないからです。大人の職場でハラスメントが絶えないことからもわかります。ネット上の「炎上」もいじめに通じるものがあります。いまや、いつ、どこで、誰がいじめの標的になるのかわかりません。

 学校でいじめが起きたときは、その子どもの「心身の苦痛」をできるだけ早く取り除くことが大切です。何が起きたのかという事実確認や、どうして起きたのかという原因究明よりも、傷ついた子どものケアを優先すべきです。いじめられた側はつらい気持ちを訴えることだけで精一杯です。そんな子にとって、いじめられたいきさつや原因を聞かれるのは苦痛をいや増すことになりかねません。

 「心身の苦痛」を与えた側に対する適切な指導とはどんなことでしょうか。いじめた側に、「自分がされていやなことをしてはいけない」と指導することがあります。しかし、「自分がされていやなことをする」のがいじめですから、諭してもあまり効果は期待できません。また「なぜいじめたのか」と追及しても、結局は「いじめたかったから」に行き着くでしょう。「ごめんなさい。もうしません」と謝ったからといって心から反省しているとは限りません。けんかした同士を握手させて仲直りさせるのと、いじめた子といじめられた子を握手させて解決したことにするのを混同してはいけません。

 いじめた側には、「心身の苦痛」を与えた「心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む)」そのものについて指導することです。相手がどう思うか、自分がされたらどう感じるかをこんこんと説くよりも、自分の行為が社会的に許されないものだと理解させることに集中すべきです。

 本校には安全カメラが設置されており、校内で起きた出来事について「事実確認」することはできます。しかし「事実」を明らかにして「罰」を与えることだけでいじめが解決するものではありません。いじめた側もいじめられた側も、そして傍観していたほかの子どもたちも、トラブルを通して成長できません。したことの善悪をきちんと理解することで、初めて他者への思いやりの心を育むことができるのです。集団生活の場である学校は、子どもたちがトラブルを含む様々な体験を通じて成長していくところでもあるのです。

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