伊東達矢校長ブログ
2022.09.06
給食当番
お昼12時10分からの1時間は、給食・清掃・昼休みです。給食当番がエプロンを着け、手を洗い、食缶を教室の配膳台に運び、給食を盛り付けます。担任と副担任も手伝います。最初はもたついていた1年生も、慣れるにしたがって上手に配膳できるようになります。コロナ禍で黙食しなくてはいけませんが、お友だちといっしょに食べる時間はやはり楽しいものらしく、マスクを外した給食の時間は、子どもたちのうれしそうな顔であふれます。
給食当番は交代制です。短い時間で効率よく用意をし、食べた後は片付けなくてはいけません。給食係の仕事にも、他の係と同じように、責任感や自主性、思いやりの心を育むことが期待されています。あだやおろそかにしていい仕事ではありません。けれども、給食後に掃除をすませ、できるだけ昼休みの時間をたくさん取りたいというのが子どもたちの本音でしょう。中には当番の仕事をほっぽり出す子もいます。
校長室にやってきた6年生の男の子――本好きでまじめなKくん――が、「給食当番をさぼる子がいて困っている」とこぼしました。当番なのにエプロンを忘れてくる子もいるようです。「エプロンを持っている人が代わりにやってあげたらどうですか」と言うと、「きょうボクがそうして代わりにしたんだけど、手伝ってくれない子が多くて嫌になる」と口をとがらせます。さらに「Kくんが片付けてくれるからラッキー」と言って何人かの女の子たちは給食当番の仕事をしないで遊びに行ってしまったそうです。
「そのときKくんはどうしましたか」と尋ねると、「ボクは自分の分だけ片付けてあとは放っておきました」と答えました。わたしは言いました。
「他の人の分まで仕事をすると損をしたような気がしたからですか」
「そうです。ボクだけやるのは不公平です」
「でもそのせいで給食当番の仕事がなかなか終わらなくてみんな先生に叱られたんですね。Kくんが他の人の分まで片付けたらもっと早く済んだかもしれませんよ」
「Kくんがしたような『自分の仕事だけする』と、『損をしたくないから自分も仕事をさぼる』以外に、『さぼった人の分もする』という選択肢もあります。全体の利益を考えたら3つめの選択肢もありだと思いませんか。これを選ぶことのできる人は少ないでしょうが、その人こそ人から信頼され、リーダーになれる人です。誰でも損をしたくありません。でもみんなのために損を承知で引き受けた人は、周りから感謝され、『偉いなあ』と言われるでしょう。そういう人はいずれ本当に『偉い』人になります。単なる使い走りではありません。誰から命じられたわけでもなく、自分から全体のために行動するのはリーダーに欠かせない能力です。そして自分にはできないことをする人を、人は尊敬するのです」
そう言ったところで昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴りました。じっと聞いていたKくんは、1年生たちが散らかしていった校長室の椅子を一つずつ戻すと、「失礼しました」と言って教室へ行きました。
学校生活は発見の毎日です。子どもたちはいろいろな経験をして成長しています。そうした子どもたちのリアルな日々に接していると、わたし自身も成長している気になれます。教師がよく口にする「子どもたちに教えられる」というのは、まさにいまのわたしの実感です。
伊東 達矢
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