伊東達矢校長ブログ

2022.11.10

知らない世界

 今月の校長室トークのお題は「で・き・た!」です。

 子どもには知らないこと、できないことがいっぱいあります。だから新しいことをどんどん吸収します。そして知ったこと、身につけたことを言いたくてたまりません。

 「漢字の多い本が読めた」「県庁所在地を覚えた」「英語で自己紹介した」といった勉強関係から、「跳び箱6段をクリアした」「一輪車に乗れた」「トゥシューズを履く許しが出た」という運動系まで、子どもたちは得意げに報告してくれます。わたしは「えらいねぇ」「すごいねぇ」「がんばったねぇ」と言うぐらいなのですが、子どもたちはそれで満足なのか、にっこり笑って飛び跳ねて帰っていきます。

 「相手が何を考えているのかわからない」と悩む人がいますが、よくわからない相手だから知りたくなることもあるのではないでしょうか。もっと知りたい、話を聞きたいという気持ちで接すれば、きっといい関係になれます。

 校長室には、子どもたちや保護者、先生方だけでなく、外からのお客さんも訪ねてきます。「ご挨拶まで」とお立ち寄りになった方とも、まずはビジネスの基本として名刺を交換し、そのあと時間が許せば座ってお話するようにしています。校長室の本や絵などをきっかけに話がはずみ、意外なご縁のあることが判明して、初対面なのに身近に感じられたことがありました。

 出張するときには、本来の要件とは別に、お目にかかる相手の方や関連することを調べていきます。相手の方もわざわざ時間を割いてくださる以上、互いに有益な時間にしたいと思います。先だって他県の私立小学校を訪問しました。その学校の関係者や開校のいきさつについて、当時の新聞報道やネット記事に目を通しておいたところ、校長先生に「そんなことまでご存じなんですか」と驚かれました。その校長先生との距離がぐっと縮まり、これからお付き合いしていきたい気持ちになれました。興味を持ってくれる者に人は親しみを覚えるものです(時に警戒されることもありそうですが)。直接会って話をする、つまり時間を共有することはとても大切だと痛感します。

 思想家の内田樹さんがこんなことを書いています(『先生はえらい』ちくまプリマー新書 2005年)。

 私たちが会話においていちばんうれしく感じるのは、「もっと話を聞かせて。あなたのことが知りたいから」という促しです。でも、これって要するに、「あなたが何を言っているのか、まだよくわからない」ということでしょう?

 私たちが話をしている相手からいちばん聞きたいことばは「もうわかった(から黙っていいよ)」じゃなくて、「まだわからない(からもっと言って)」なんですね。

 恋人に向かって「キミのことをもっと理解したい」というのは愛の始まりを告げることばですけれど、「あなたって人が、よーくわかったわ」というのはたいてい別れのときに言うことばです。

 子どもにとっての知らない世界は、大人のそれよりずっと広い。そして知れば知るほどまだわからないことが出てくる。だから子どもは日に日に成長できるのです。大人のわたしもいろいろなことに興味を持ち、たくさんの人に会って話をすることでもっと成長したい、そう思っています。

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